+ 小論文:第1回・前編(担当:西尾仁志)

Introduction

ここでは、SFC小論文に取り組みにあたり、どうアプローチをしたらよいかを説明していくことにします。その第一歩として理解しておくべきことは、SFC小論文の出題形式です。

小論文で一番大切なことは、出題者側の質問に、条件を満たして、応えてあげることです。決して、専門的な内容を盛り込んであげることが、評価の高い小論文となることではありません!それよりも、問われていることの要求を満たしてあげることが、評価の高い小論文となります。したがって、出題者側の質問や論述の指示を把握することは、小論文を解答する上で、最初にしなければならないことなのです。

【近年のSFC小論文の出題形式の特徴】
  1. 的を絞った明確なテーマの提示
  2. 複数の論述フォーカスの設定
  3. 複数資料の活用
1. 的を絞った明確なテーマの提示

 まず、前提の知識として、テーマについて定義をします。[テーマ]とは、小論文で何を聞いているかという出題者側の"質問"です。SFC小論文のテーマは、他大学の小論文の問題よりも明確に設定されています。したがって、小論文を書き進めて行く途中で、論旨が逸れにくくなっています。同じ慶應である法学部の小論文と比べると、SFCの小論文のテーマの明確さがよくわかります。この傾向は、2000年の環境情報学部から顕著になったので、その問題と、同じ年度の法学部の問題を以下に挙げてみます。

2. 複数の論述フォーカスの設定

 [論述フォーカス]とは、テーマに対する解答を論じていく際に必要となるポイントのことです。したがって、テーマと論述フォーカスには、なんらかの関連性があるので、論述フォーカスは解答する上のヒントとなります。また、論述フォーカスを、段落構成のヒントとして活用することも可能です。(具体的には、《第一段落:主張→第二段落:論述フォーカス(その1)→第三段落:論述フォーカス(その2)→第四段落:主張の繰り返し》といった構成にする方法があります。このような段落構成法や論理的な論文の書き方は、また今度くわしくレクチャーしたいとおもいます。)つまり、[論述フォーカス]とは、受験生が論述する上で、何をどのように書けばいいかというガイドラインだと言えます。

 では、ここで実際の問題を使って、解説することにします。

<例題1>

 アメリカ合衆国には、宗教上の理由から、自動車、電気、電話、テレビなどの使用を制限し、ほぼ300年前の暮らし方を続けている、アーミッシュと呼ばれる人々がいます。彼らの生活は、エネルギー消費が少なく、適度な情報に振り回されることなく、家族が強い絆で結ばれており、私たちに科学技術の進歩の意味を問いかけています。

 資料1はアメリカ合衆国ペンシルバニア州出身の実業家が自分の生まれ故郷のアーミッシュを郷愁をもって紹介している本からの抜粋、資料2は日本人のジャーナリストによるルポルタージュから抜粋です。資料3-1と3-2はアーミッシュの生活の一部を示す日本人の写真家による写真です。

 これらの資料を参考に、アーミッシュの人々の生活を一つのモデルとして、君たちの生活と具体的に比較する事によって、20世紀の近代科学技術の発展が現代の生活に与えた影響のプラス面とマイナス面の両面についてそれぞれ考察した上で、21世紀の科学技術の発展と暮らしのあり方についての意見を記述しなさい。解答欄は1000字ありますので、その中に必ず、科学技術の発展が与える影響のプラス面、マイナス面、そして21世紀の科学技術の発展と暮らしのあり方の3項目がわかるように、記述しなさい。

【出典:慶應義塾大学 2000年 環境情報学部】

上記を読み、この問題で問われている(1)テーマと(2)論述フォーカスを明らかにしなさい。

<例題1解答例 (:論述フォーカス / :問題文中のヒントの拾い上げ&発想プロセス)>

(1)テーマ:『21世紀の科学技術の発展と暮らしのあり方』

(2)論述フォーカス(x3)
アーミッシュの人々の生活を一つのモデルとして、君たちの生活と具体的に比較する事
アーミッシュと私たちとの比較

20世紀の近代科学技術の発展が現代の生活に与えた影響のプラス面
科学技術の恩恵

20世紀の近代科学技術の発展が現代の生活に与えた影響のマイナス面
科学技術によって引き起こされた問題点

(科学技術の功罪は問題文中の"エネルギー消費が少なく、適度な情報に振り回されることなく、家族が強い絆で結ばれており…"という記述がヒントとなっています。)

※1:この問いの中の文章の第1段落は、「アーミッシュ」に関する背景知識を端的に提供してくれています。第2段落では、各資料のみだしを付けて、資料文を読みやすくする配慮がされていることも、意識しておきましょう。
(入試本番で見慣れないテーマに出会っても、あせる必要はありません。)

※2:「マイナス面を探す」ことは、SFCで言う"問題発見"です。そして、テーマで問われている『あり方』が"問題解決"です。 SFCの理念を意識することで、小論文で求められていることが明確化することができます。

では、つぎに同じ年度の法学部の問題を見てみます。
(パッと見、すごく短い。ということは、論述のヒントとなる情報量が少ない…!?)

<例題2>

1970年代に書かれた次の文章を読んで、特定の社会問題に焦点を合わせながら、あるいはあなた自身の経験にもとづきながら、自らの考えを自由に述べなさい。

【出典:慶應義塾大学 2000年 法学部】

上記を読み、この問題で問われている(1)テーマと(2)論述フォーカスを明らかにしなさい。

<例題2解答例 (:論述フォーカス / :問題文中のヒントの拾い上げ&発想プロセス)>

(1)テーマ:資料文のポイントと関連したテーマ(はっきりとした内容は、現段階ではわからず)

(2)論述フォーカス(x1)
「特定の社会問題に焦点を合わせる」or「自身の経験にもとづく」
どんな社会問題?
何に関する個人の体験なのか?

はっきりとした(1)テーマは、資料文を読まないとわからないようです。おそらく、資料文を読解した上で、そこでのポイントと関連したテーマ設定をすることになるのでしょう。
つぎに、(2)論述フォーカスは、「特定の社会問題に焦点を合わせる」か「自身の経験にもとづく」です。そして、この小論文は"自由に"考えを述べられるそうです。ということは、自分で論じる内容の的を絞るという作業をしなければなりません。そうしないと、全体として何が言いたい文章なのか、ぼんやりしてしまいます。
以上から、法学部の問題は、テーマ設定や論述フォーカスに、ゆるい縛りしかなく、あとは受験生が各自で考えて設定することになります。それに対して、SFCの問題は、テーマ設定や論述フォーカスに関して、明確な指示があります。これは、受験生が論旨を方向付けるための案内として、SFCの親切心なのです。

<練習問題>
問題

主としてわれわれの税金を原資とした政府レベルの対外援助を政府開発援助(ODA)と呼んでいます。日本は、1980年代にODAを増やし、90年代に入ると、米国、フランス、英国など主要援助国を抜いて、援助額では、世界一になりました。しかし、1998年の153億2千3百万ドルを最後に減少に転じ、2001年には日本は米国に抜かれ、第二位になりました。日本の2001年の支出額は、98億4千7百万ドルに留まりました。

日本のODAは、対ベトナムのように二国間の援助と、世界銀行のような国際機関への資金拠出によって構成されています。二国間援助を医療分野を例に説明すると、病院建設、医療器具の無償での提供(無償資金協力)、医療技術の指導など人的協力(技術協力)と、ダムや港の建設など巨額の資金を必要とする案件に対する資金貸付(有償資金協力)の三つからなっています。2001年では、無償資金協力が約19億ドル(19.3%)、技術協力が約28億ドル(28.8%)、有償資金協力が約27億ドル(27.6%)で、残りが国際機関への拠出金役24億ドル(24.3%)でした。世界銀行などの国際機関は、日本、その他の諸国からの資金により、独自に援助を行っています。

問1

日本政府は、冷戦終結後の海部内閣時に、ODAを行うに際しての原則を定め、ついで宮沢内閣時代の1992年6月30日に、理念、原則などを包括的に示したODA大綱(資料1)を閣議決定しました。その11年後の昨年8月29日、小泉内閣は新たなODA大綱を閣議決定しました(資料2)。両者は、中身は似てはいるものの、よく読むと、相当大きく違いがあります。重点の置き方の違いが記述の仕方、分量などからもうかがえます。旧大綱が米ソ冷戦終結という国際社会の構造変化を前提としていたように、新大綱も内外の変化を反映しています。この10年の国内社会の最大の特徴は、バブル崩壊による長期にわたる不況でしたが、決してそれだけではありません。さまざまな政策や行政の仕組みについて変化がみられました。言い換えれば、日本のODAを取り巻く環境が、10年の間に著しく変化したということです。そこで、この10年の国際社会、国内社会双方の変化について、新ODA大綱が必要となった理由を説明できるように、1000字以内で記述してください。

問2

ODA大綱は新旧いずれも、日本政府のODAに対する姿勢を示すものです。当然のことながら、ODAを肯定的にとらえています。他方、資料3にあるように、一部のNGOのODAに対する考え方は、政府のODAに対する見方とは相当異なるものです。なぜ、このような見方の相違が生まれてくるのか、500字以内でその理由を説明してください。なお、ここでNGOが主張している内容についての日本政府の見解は資料4にみるとおりです。なお回答は、コトパンジャンダム(コタパンジャンダム)という個別案件の是非を問うているわけではありません。あくまで、見解の相違が生まれてくる理由について諸君の説明を求めています。

【出典:慶應義塾大学 2004年 総合政策学部】

上記を読み、この問題の問1と問2のそれぞれで問われている(1)テーマと(2)論述フォーカスを明らかにしなさい。

<練習問題解答例 (:論述フォーカス / :問題文中のヒントの拾い上げ&発想プロセス)>
問1

(1)テーマ:『新ODA大綱が必要となった理由』

(2)論述フォーカス(×2)
この10年の国際社会の変化
"米ソ冷戦終結"という問題文中のキーワードはどういうことか?
ソ連がいなくなったため、アメリカの単独で世界を仕切る。
アメリカの行動を止めることができなくなってきた。(ex.イラク戦争)
貧困、そしてテロが国際的な問題になってきた。
(問題文中にある"重点の置き方の違い"と関連)

この10年の国内社会の変化
"バブル崩壊による長期にわたる不況でしたが、決してそれだけではありません"とヒントあり。
つまり、経済面の変化だけではない。(じゃあ、ほかにどんな変化?)
"政策や行政の仕組みについて変化"と問題文中にヒント。
なんだろう?政治面での変化かな?(あとは資料文に頼ろうかな。)
問2に"NGO"というキーワードがある。
市民社会が世の中を動かす傾向、市民の政治への関心
政府は、市民に対して情報を公開し、賛否を問い(議論し)、政府と市民がいっしょになって政治を動かす必要がある。
市民にわかりやすいようにと、アカウンタビリティー(説明責任)の必要性が生じた。
(問題文中にある"記述の仕方、分量"と関連)

問2

(1)テーマ:『政府とNGOで、ODAに対する見方の相違が生まれる理由』

(2)論述フォーカス(x1)
個別案件の是非を問うているわけではない。
政府とNGOの立場の違いを述べる。
具体事例(資料にある個別案件)の考察から抽象的一般論(政府とNGOの立場の違い)を引き出す。

3. 複数資料の活用

 SFCの小論文では、大学受験生の通常の知識では知らないような(高校までであまり学んでいない)内容の題材がつかわれることがあります。そこで、足りない知識を補うために、多くの資料文がついているのです。(もちろん、テーマで問われている内容の前提知識があることが望ましいですが、その内容を知らなくても大丈夫です。)

 これは、大学で課題レポートを書くときに似ていています。小論文の資料は、大学のレポートを書くうえでの参考文献ということができます。したがって、資料を丸写して、あたかも自分の意見とすることは厳禁です。そうではなく、資料に書いてある内容を自分なりに理解して、自分の言葉でその内容を表現したり、自分の意見を生成するうえでのヒント(=参考)として使ってください。

 資料文を読むときのポイントとしては、複数の資料文同士で共通する内容、対立する内容を見つけることです。そして、解答の中に、それらに触れ、議論させることです。つまり、どちらが望ましい立場か明確にしたり、議題となっていることの功罪を指摘したり、その理由付けをしてあげることです。こうした論理的な思考を通じて記述されているかが小論文は1番大切なのです。したがって、複数の資料は、そうした論理的な思考をするうえで必要となる、テーマに関する知識を教えてくれているのだと考えておいてください。

 もう一度、最初に言ったことを繰り返しますが、小論文で大切なことは、小論文で取り上げられている内容を知っているかではなく、小論文で問われていることに対して、的確に応えてあげることなのです。つまり、上記の例題や練習問題の解答例のをすべて盛り込んだ、小論文を書くということです。それが、小論文のでき具合を安定させるコツでもあります。

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